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チャップリン『殺人狂時代』

学生たちに
チャップリンを見せようと思って、『キッド』『街の灯』を用意していたが、レクチャーに時間をとられて短編しか見せることが出来なかった、前回の授業。
久しぶりにチャップリンを教材に取り上げて、見て、これまで見た中で、印象に薄いタイトル『殺人狂時代』をレンタル店で借りてきた。もう一度見直してみたいと思ったから。

チャップリンの映画との
出会いは、小学生の頃だったろうか? 中学生の頃だったろうか?
テレビの「洋画劇場」の番組や、NHKでの放送なら、最初の出会いは小学生だったかもしれないが、正確には覚えていない。
映画館に、お小遣いで友だちと見に行ったことは鮮明に覚えている。中学1年生のとき。
同級生のお姉さんが映画好きで、連れて行ってもらって3人で、近くの映画館で2本立てを見に行った。
阪急伊丹グリーン劇場・ローズ劇場。
グリーン劇場は、自分が洋画にはまるきっかけとなった映画館。校外のちっさな映画館だった。
その時に出会ったチャップリンの『街の灯(1931年)』は、映画を、映画館で笑いながら見てもかまわないんだって教えてくれた。

このときに
『殺人狂時代』にも出会っているはずなのだが、面白いと思った記憶がない。
中学生の時の自分は、パントマイムでドタバタとはしゃぎまわって笑わせてくれるチャップリンに魅力を感じていたんだと思う。喋るチャップリンに関心が薄かったのかもしれない。

あれから40年近く経って、あらためて『殺人狂時代』を見た。
記憶どおり、ドタバタは地味だが、様々な映画技術を手に入れたチャップリンの、表現力と、ユーモアと皮肉、強烈なテーマに圧倒されてしまった。

焼却炉

大勢の
人物が登場し、次から次へと場所が変わり、ストーリーが進行するのだが、すごくテンポが良い
すでに、チャップリンもトーキームービーを手がけ始めていた。たくさんの台詞が語られるのだが、ドラマの進行にスピード感がある。
台詞が長いと、物語が停滞してしまうことが多々あるのに、映画が停滞することはない。

スピード感のある場面転換が、映画のテンポ良くしている。その、場面転換テクニックのひとつに、疾走する機関車の動輪のクローズアップがある。
殺人狂時代の車輪

繰り返し登場するこの画面は、回転する車輪と、勢いのある音楽と合間って、先に進むストーリーの展開の期待を持たせ、気持ちを煽る効果がある。
機械的な回転は、命について微塵も考えずに、まるで職業として殺人を続ける。チャップリン演じるヴェルドゥ氏の姿勢の暗喩にもなっている。
キャラクターの役付けと、時間経過と場面の移動をバッサリとと省略して見せた、素晴らしいモンタージュ。

しかし
主人公ヴェルドゥは、人間性のかけらもない単なる殺人モンスターとして描かれているわけではない。
何よりも、家族に対する愛情は人間的だし、小さな虫や、行き場所のない野良猫に対して、信じられないくらいの優しさを見せる。

殺人を、職業として意識し、割り切った考えを持っているという、キャラクター設定なのである。
そこが、哀れでもあり、怖さでもある。

殺人狂時代 優しさ

脇役で
重要なキャラクターの一人であるマーサ・レイが演じるアナベラ・ボヌールの、おばちゃんっぽさが面白い。
彼女は、下品に大声で、よく喋り、よく笑う。
彼女の芝居の演出を見ると、チャップリンは、この映画で充分にトーキーを自分のモノにしたように思える。
声のなかったサイレントムービーから、完全に卒業したように感じる。

殺人狂時代マーサ・レイ

だからと言って
チャップリンは、サイレントムービー時代に築き上げてきた、画面で魅せる技を忘れてしまったわけではない。
芝居の妙とカット割り、編集によるタイミングの創作による絶妙なリズム感は、映画の本質を忘れない、チャップリンの偉大さを再確認できる。

チャップリンがマーサ・レイを毒殺する準備に、メイドが絡んでくるシーンは、何度見ても感心する。
映画の物語の中ほどに用意された見せ場となっている。

チャップリンのカット割り 

重要な脇役の
もう一人に、ヴェルドゥが、毒薬の効果を試すモルモットとして選んだ娘(マリリン・ナッシュ)がいる。
贅沢な金持ちから財産を奪うヴェルドゥではあるが、出所したばかりの薄幸の娘の命を奪うことを諦める。

人間に不信感を抱き、生きる希望を失いかけていた娘は、ヴェルドゥを命の恩人と思い込み、その後、結婚し幸せを手に入れる。

その後、大恐慌で妻子を失ったヴェルドゥと偶然再会し、彼に愛の手を差しのべる。

マリリン・ナッシュ


リストラにあい、家族を養うべく殺人に手を出し、しかし、恐慌で全財産も家族も失ったヴェルドゥ。
自身のアイデンティティを完全に失ってしまった。

夢から覚める

逃げることなく、自ら出頭するかのように観念し、法廷に立つ。

組織や大きな企業の力と、個人の力の差を、まざまざと見せつけられ、打ち拉がれてしまうというよりも、さばさばとした印象すらうかがえる。

法廷でのヴェルドゥ

戦争の張本人である国家や、兵器を製造販売する企業に対して皮肉な言葉を発する。

殺人狂時代法廷2
殺人狂時代法廷3

傍聴席の、軍需企業社長夫人となった彼女とのモンタージュは意味深。


一人の
殺人者の犯罪を追うドラマで終わらせず、チャップリンは、主人公を、時代が生み出した怪物として描き上げ、見る人や社会に問題を投げかける。

有名な台詞「一人殺せば悪党で、100万人殺せば英雄です」は、兵器を作り、戦争で勝利に貢献した企業や、それを良しとした政治家への痛烈な批判である。

一人殺せば悪党 100万人なら英雄

「私のやったことなど
可愛い、とるに足りないことさ」
「I'll be back. 死んでも第2第3のわたしは現れるさ」
そんな台詞が聞こえてきそうなラストシーンでした。


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大阪で、アニメーションの仕事に関わり、現在は、大阪デザイナー専門学校(旧称・大阪デザイナー学院)で、アニメーション学科とキャラクターデザイン学科の1年生2年生の担任をしています、森宏樹です。 手技や映像に関する授業を担当し、描いたり作ったりの指導をしています。

MORI Hiroki

Author:MORI Hiroki
たった15秒や30秒のコマーシャルが、大きな映画にも負けない感動を与えてくれる。
カメラマン宮川一夫が撮影した「トリスウィスキー」の作品は、大好きなCFのひとつ。

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