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『おとうと』から構図を学ぶ

1960年
市川崑監督の映画『おとうと』
カメラマンは、宮川一夫さん。

タイトルおとうと「銀のこし」とよばれる
技術的なことが取り上げられる映画。
銀残しは、フィルム現像手法の一つで、本来の銀を取り除く処理をあえて省く事によって、フィルムに銀を残すものである。映像の暗部が極端に暗くなりコントラストが強くなり、彩度の低い渋い発色になる。
物語の時代設定である大正の雰囲気を出すことを市川崑監督が、カメラマン・宮川一夫に注文をつけて試された技法。

その結果
とても個性的な画面が出来上がり、痛々しく哀しい物語を乾いた「色のない色」が、見事に表現された。

だけど今回は
宮川一夫さんが作る構図の話し。

映画『おとうと』は、シネマスコープサイズで撮影された映画。

シネスコ_1

シネマスコープサイズは、画面の横縦比が2.35 : 1と、かなり横長なサイズ。
スタンダードと比べて異様に横に長い画面は、ダイナミックでパノラミックで、スクリーンに取り巻かれている感覚をもたらし、とてもカッコいい。広大な風景や、奥行きのある対象を映し出すのに、とても威力を発揮する画面だ。
しかし、スタンダードサイズでは当たり前の様に映し出していた、人物の顔のアップショットやバストショットになると、余分な背景が映ったり、別の人物まで映り込んだり、アップショットにならないのだ。

カッコいい反面、構図をとるのに難しい、扱いにくい、やっかいな画面だ。

シンゴジラ1 スタンダードサイズだと、ゴジラの造形や顔の表情に意識が集まる。

シンゴジラ3
シネマスコープサイズになると、背景が見えてしまって、作り物感丸出し、興ざめの画面になってしまう。

スタンダード中央の女の子に注目出来る画面。

シネスコ
シネマスコープサイズになると、主人公以外の人物も画面に映り、画面のテーマが散漫になる。

構図の常識として、中央に映ってくれてさえいれば、画面の主役は誰なのか理解出来るが、観客は、映っているものがあれば、やはり見てしまう。映っていれば「何かあるのかな」と勘ぐってしまうものなのだ。その結果、作り手の思いと離れてしまうことが起こってしまう。

そんな具合に
扱いが難しいシネマスコープサイズを、宮川一夫カメラマンは、こんなふうに付き合ったと、講演会で直接聞いたことがある。

あの、横に長い画面全部に、どう、被写体をバランスよく収めるかということを考えるのではなく、シネマスコープの画面の中に、4:3の画面を意識するんだって!

言われてみれば
映画『おとうと』には、画面の大半を、陰や物で隠したりつぶしてしまう画面がたくさん使われている。

最初の飴の中のシーン。
最初のシーン

左半分の樹が、画面の半分を隠してしまっている。

弟、碧郎(へきろう)のために、針仕事をしている姉、げん。
左半分の黒い影は蚊帳。
蚊帳1

起きて、這い出してくる碧郎をナメた構図。
碧郎の後ろ姿は完全に影にしてしまっている。
蚊帳2

蚊帳3

銀のこしで現像・プリントされた画面は、暗部が黒くつぶれてしまうので、証明の当て方で、シネマスコープでありながら、スタンダード画面を見ている様な画面を作ることができている。

画面の真ん中を
柱でふさいでしまう!
このように構図をつぶしてしまうなんて、常識的にはありえない!
塞いだ画面

これこそが
シネマスコープサイズ画面の中に、スタンダードサイズの画面をつくるということか。

編集後のことを考えて
観客の視点が一致するように気遣いされている構図とカメラワークには恐れ入ってしまう。

帰ってきたげん。
玄関である。
玄関げん

母が呼びつける。
母が呼びつける

見せたい被写体は、カットが変わっても、画面の左半分に集中させていて、観客は、カットが変わってもキョロキョロと対象を探す必要が無い。

さらに、二人の会話の画面。
二人の会話

完全に、右の画面は捨ててしまっている。

こちらも同様。

医者の診断を受ける碧郎。
診断へきろう

診察室の間仕切りで画面の半分以上を隠してしまっている。
医者から診断の結果を聞く姉弟。

ポンと寄ったら…
姉弟

ちゃんと、前の画面のあの位置に二人がいる。

シーン変わって

写真館の前で、「記念に二人で写真を撮ろうよ」
写真館

写真館に入って行く。
写真館2 写真館3

シーン変わって、写真立てに入った二人の写真。
写真フレーム

ふすまが閉められて、照明の当たった写真だけが画面に残るという、カッコいい演出。

この一連も、視点の一致が守られている。

ここに取り上げた
カット割りがそうであるように、大半が、画面の右半分が隠されて、左側で見せる構図が使われているのは面白い。
たまたまでしょうか?
画面の左半分に、何か特別な意味を含んでいるのでしょうか?

でも
宮川一夫カメラマンって、凄い!

ラストシーンも
画面の左半分を使って、芝居を写していました。

へきろうさん
ヘキロウさん
息を引き取った弟を見つめる
宿直室に運ばれる
気丈に立ち上がる
病室に戻る
完
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プロフィール

大阪で、アニメーションの仕事に関わり、現在は、大阪デザイナー専門学校(旧称・大阪デザイナー学院)で、アニメーション学科とキャラクターデザイン学科の1年生2年生の担任をしています、森宏樹です。 手技や映像に関する授業を担当し、描いたり作ったりの指導をしています。

MORI Hiroki

Author:MORI Hiroki
たった15秒や30秒のコマーシャルが、大きな映画にも負けない感動を与えてくれる。
カメラマン宮川一夫が撮影した「トリスウィスキー」の作品は、大好きなCFのひとつ。

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