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黒澤明監督『赤ひげ』狂女のシーン

『赤ひげ』 黒澤明監督 1965年 東宝

狂女のシーン

保本 登 : 加山雄三
狂女    : 香山京子

病室から逃げ出したお嬢さん、保本の部屋に現れる。

突然の登場に保本はびっくり。
横になっていたが、起き上がる。

狂女・香川京子 保本・加山雄三 保本の部屋に入ってくる狂女。後ろ手で扉を閉める。 

ここからが、授業で教材として使用したシーン。

シーン・保本登の部屋
カット1

向かいあったふたり。
女が、その場にしゃがむ。

ここからがが今回の教材。カット1。向かい合った二人。シネマスコープ一杯に使ったフルショット、横構図。 
狂女、座って、画面の二人の視線のアングルに変化が生じる。狂女は弱い立場に。  

二人の位置関係、特に視線の関係から、患者であり、女性である、彼女の立場の弱さを構図で説明している。

立場が弱くなった彼女に、距離をつめて近づく保本。
構図のバランスを保つため、カメラはトラック・アップして構図の修正を行う。

彼女が座って話し始めたのをきっかけに、保本、歩み寄る。構図を修正するようにカメラはトラック・アップ 
彼女と目線を同じにするため、保本も座る。  

保本も、座り、患者と目線の高さを合わせようとする。
患者に、立場が同等であることを伝える配慮。

さらに彼女に近づく保本。カメラもあわせてトラック・アップ。 
さらに彼女に近づく保本。カメラもあわせてさらにトラック・アップ。 

さらに、距離をつめていく。

他人に言ってはならない身の上話をしてしまった自分に気づく女。


狂女の表情が一変。 
立ち上がって、おびえるように逃げる彼女を追いかける。カメラは二人をフォロー。 

「殺される、殺される」
おびえて逃げる女。
「落ち着け、落ち着け」と言って、なだめる保本。

女が、右へ左へ動き回わるのを、フォローで追いかける。
二人の距離が狭まるにつれ、カメラはさらに寄っていく。

二人の距離は、うんと近づく。 

一番近づいたときに、女は保本にしがみつく。

狂女、助けを求めるように保本にしがみつく。 
保本の胸に飛び込む。ここまでワンカット。移動撮影・フォローでショットサイズと構図に変化はあるが、舞台を見ている観客の視点。 

ここで、カットが変わる。

カット2
しがみついた彼女を、保本の背中側から写す。

なぜ、カットを割ったのか。保本の背中を見せたのか。

カットを割って、カメラは保本の背中を写す。何故かというと… 
保本の背中に、狂女が袖を巻くのを見せるため。 

二人のシルエットと、壁に映った影(シルエット)が、相似形で連続していて、平面構成としても面白い構図の効果を表現。
話を続けながら、保本の背中に袖を巻きつける。 

さらにカットを割って、
カット3
画面から二人の表情を排除させた、クローズ・アップ。
着物の袖を使って、男を逃がさないように、縛りつけていることが、はっきりと説明される。

その様子を、しっかりと見せるため、さらにカットを割って、巻きつける袖のクローズ・アップ。 
完全に巻きつけて、男が身動きがとれないようにした。 

かんざしで、人を殺した打ち明け話とシンクロして、今、かんざしを抜く。
保本も気づくが、手遅れ。
体の自由を奪われてしまっている。

カット4 

カット変わって、かんざしを抜くアップショット。 
そのかんざしに気づく保本。タイミングよくかんざしがキラリと光る。今ならCGで処理してしまう何気ない演出だが、何回もリハーサルして、何テイクも撮って、やっと手に入れた画面のはず。 

恐怖に引き攣りながら、必死で逃げようとする保本。

カット5 

女の表情が完全に変わってしまっている。ひとつの芝居だが、このカット割を撮るのに、複数の日にちを費やしている。 

カット6
女の形相と、かんざし、保本のクローズ・アップ。

恐ろしい女の顔とかんざし、ひっしで抵抗する保本の表情のアップショット。 

カット7
男を倒す。

格闘の間、カメラはフォロー。一瞬、引いた画面になる。身動きが取れない保本を確認するカット。  

カット8
再び、恐ろしい形相に変わったおんなのアップショット。
保本の口を、自分の口で塞ぐ。
若い男は、完全に参ってしまった。

男を殺す表情に変わった女の次の行動は…  
自分の口で男の口をふさいだ。接吻ではない。彼女の視線は完全によそを向いている。 

ロマンチックのかけらもない接吻。
女の目が、在らぬ方向を見ているのが恐ろしい。

一瞬、カメラが引かれる。 
カット9
参ってしまった男が、抵抗できず、腕を〝だらん〟とさせてしまう瞬間を見せたカット。

一瞬カメラは引いた画面になるが、保本の手が、力なくはなれるのを見せている。 

もう一度寄る。 
カット10


気を失った保本。勝ち誇ったような狂女。 

気を失っていた保本。
はっ と気づく。

気づく保本。 
首筋にかんざしを突きたてる。こらえる保本。 
突き刺さるかんざし。間一髪のところで赤ひげが登場。扉が勢いよく開かれる。カメラはティルト・アップしてフレーム・インして来た新出去定を写す。 

首筋に、かんざしをを突き立てようと力が入る。
抵抗するが、どうにもならない。

そのとき、扉が開き、間一髪のところで助けが入る。
    

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プロフィール

大阪で、アニメーションの仕事に関わり、現在は、大阪デザイナー専門学校(旧称・大阪デザイナー学院)で、アニメーション学科とキャラクターデザイン学科の1年生2年生の担任をしています、森宏樹です。 手技や映像に関する授業を担当し、描いたり作ったりの指導をしています。

MORI Hiroki

Author:MORI Hiroki
たった15秒や30秒のコマーシャルが、大きな映画にも負けない感動を与えてくれる。
カメラマン宮川一夫が撮影した「トリスウィスキー」の作品は、大好きなCFのひとつ。

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